飽和潜水

ダイビングの種類

飽和潜水

潜水した人が急速に大気圧の場所に出たときに起こる潜函病(減圧症)を防ぐため、あらかじめ体内にヘリウムなどの不活性ガスを飽和状態になるまで吸収させることで、水深100メートル以深でも安全に潜水できるようにする手法。加圧・減圧は特別なタンク内で行うため、潜水後の減圧には数日から十数日を要する。

どうして人が、深い海の底までもぐる必要があったのでしょうか。

日本海には大陸棚とよばれる、水深200メートルほどの地域があります。1966年ごろ、大陸棚にある石油天然ガスなどの資源開発が必要だといわれていました。しかし当時の技術では、ロボットや潜水船で作業するのは不可能でした。そこで人が大陸棚の斜面、水深300メートルくらいまでで作業する必要が出てきたのです。

水深300メートルに人がもぐると、水圧にさらされたり、窒素やヘリウムなどのガスが体にたまったりします。しかしその環境でも、時間がたつにつれ人間の体はなれていきます。たまるガスもある程度でいっぱいに(飽和)。これを利用したのが「飽和潜水(ほうわせんすい)」という技術です。人体を「なれた状態」からふつうのくらしにもどすと負担がかかります。そこで、深海での作業中と船での一時休憩のときを、圧力がかかりっぱなしの同じ環境にいることで、「なれた状態」をたもちつづけて作業の効率を上げています。

飽和潜水(ほうわせんすい)実験を支援した「かいよう」には、「減圧タンク」という部屋があります。深海にもぐるダイバーがこの部屋に入り、約十時間かけて部屋全体に圧力をかけ(加圧)、室内の気圧を水深300メートルの海底での水圧と同じにします。この間のことを、経験した人は「骨がちぢんだように感じ、関節がいたみます。息苦しく、意識しないと呼吸ができません」。

実験を支援した「かいよう」

甲板が広く、減圧タンクなどたくさんの装置をつめます
長さ:61.6メートル 幅:28.0メートル 重さ:3385トン
定員:60人(乗組員29人、研究者など31人)

減圧タンク

船内にある円筒型の部屋。気圧を上げたり下げたりできます。ダイバーはここから海底へ出発します

10時間かけ加圧し海底へ 元に戻す減圧には12日間

体がなれたら深海に出発です。減圧タンク内にある「ダイビングベル」という釣りがね形の装置でダイバーたちは海底におりていきます。

水深300メートルの水温は7~13度。ダイバーとダイビングベルはホースがつながっていて、中を流れる温水が体をあたためます。

ダイバーの作業時間は、1回につき2~3時間。時間がすぎ、いったん休憩するときは、ダイビングベルで母船内の加圧したままの減圧タンクにもどります。減圧タンクと深海を往復しながら、1か月もの間作業がつづくこともあります。

作業が完全に終わると、減圧タンクの中で、気圧がもとにもどる(減圧)のを待ちます。加圧のときは10時間ほどでしたが、減圧には約12日間。筋肉や軟骨にたまったガスをゆっくりぬかないと、病気になる可能性があるのです。

飽和潜水(ほうわせんすい)は72年、「海の底に住む」という夢を追いもとめた「シートピア計画」でスタートしました。実験をかさねた後、70年ぐらいまでに飽和潜水(ほうわせんすい)の技術は実用化され、いまでは北海やメキシコ湾で石油をほるのに使われています。

海洋研究開発機構

深海にもぐる技術

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